福岡教育連盟は教育の正常化を目指し、日々教育活動に励む教職員の集まりです。

私たちの主張

Opinion

平成27年12月25日

不登校 公教育が解決すべき大きな課題



不登校児童生徒の現状


 文部科学省の「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」によれば小中学校の不登校児童生徒数は昨年度約12万人(割合でみると小学校が255人に1人、中学校が36人に1人)となっている。推移を見てみると平成3年度は7万人弱だったのが、平成8年度には10万人を突破し、以降高水準が続いている。少子化の影響で全体の児童生徒数は減っているにもかかわらず、この数字は厳しい状況と言わざるを得ない。
 一言で不登校といってもそのきっかけは一人一人背景が異なる。文科省の調査では不安などの情緒的混乱、無気力、友人関係をめぐる問題等などが挙げられているが、本人にしてみれば家庭状況も含めた複雑な要因が絡み合っているものと思われる。

追跡調査からわかること


 もう一つの調査「平成18年度不登校生徒に関する追跡調査報告書」では平成18年度中学3年生に在籍していた不登校経験者の追跡調査の結果を公表している。前回調査(平成5年度時の中学3年生対象)と比較して、相談員やスクールカウンセラーによる支援の拡充や教育支援センター、民間施設の利用の増加など支援体制の整備が図られていることや高校進学率の増加、高校中退率の低下など一定の成果もみられるが、支援が追いついていないという現状は全体の増加数をみれば明らかである。

「多様な教育機会確保法案」


 そのような状況の中、「義務教育の段階に相当する普通教育の多様な機会の確保に関する法律案」の今後の行方が注目を浴びている。フリースクール支援のみが話題になりがちだが、法案の目的は夜間学校やホームエデュケーションなどを含む多様な選択肢を児童生徒に提供することにある。特に注目を集めているのが不登校児の保護者が、学校、フリースクール、NPO、市町村教委と相談、助言を受けながら「個別学習計画」を作成し、教育委員会の認定を受けるという仕組みで、認定されれば学校教育法の特例として保護者は就学義務を果たしたとみなされる。
 法案提出は見送りとなったが、教委の認定基準の在り方の問題や学校から安易に離れてしまう子供が増えるのではないかといった懸念が示されている。また、当事者の保護者も学校以外の学びの機会が正式に認められることを歓迎する声や逆に「個別学習計画」により本人にも親にもプレッシャーがかかるとの不安もあるようだ。
 学校へ戻すことを目標にしてきた学校の当事者として思うのは、心が折れた状態にある子供が果たして個別学習にすんなり取り組めるのか、また保護者に問題がある場合、学習計画が適切に作成できるのかなどの疑問である。また、学校側が安易に外部に任せてしまう傾向が出てくる可能性も否定できない。高等学校側としても集団教育を受けていない生徒が増加するのではないかと考えると義務教育や他関係者との一層の連携が必要となると考える。

いかなる公的支援が必要か


 公教育の目的は法案の基本理念の一つにもあるとおり、「社会において自立的に生きる基礎を培い、豊かな人生を送ることができるよう、その教育水準の維持向上が図られるようにすること」にあると考える。主眼を置くべきは、社会の一員として自立する力をいかに養うかということになる。先に紹介した追跡調査では約4割が不登校だったことを後悔しているという回答したそうだ。関係者はこの痛切な声に真摯に耳を傾けなければならない。そして、目標達成のために子供の貧困問題や障害を持った子供に対する一層の支援などを包括した公的支援について、財政面が厳しい折だが、公教育が解決すべき大きな課題として本気で考える時である。教師の立場からは多様な生徒に親身になってかかわる教育相談能力の向上を目指すとともに担任が孤立に陥ることなく他機関と連携できる仕組みを望みたい。
※本稿は平成27年12月17日に産経新聞に掲載された「一筆両断」に修正を加えたものです

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