令和元年10月10日
「今こそ『教育』を考える時」
■公立学校の競争倍率低下
近年、公立学校の教員採用試験における競争倍率が低下している。例年四月に文科省から発表される「公立学校教員採用選考試験の実施状況」によると、昭和五十四年度以降、平成十二年度の競争倍率が最も高く、13.3倍であった。これに対して平成三十年度の競争倍率は4.9倍まで低下している。
■受験者数は減っているのか
競争倍率の著しい低下の背景として、受験者数の大幅減を想起しがちだが、実は、教員採用試験の受験者数はさほど減少していない。受験者数の推移を概観すると、平成五~十七年度は増加、十八~二十五年度は横ばいで、二十六年度以降は減少傾向にあるが、あくまでも「微減」のレベルである。競争倍率低下の主たる要因は、受験者数の減少というよりも、採用者数の大幅増にあると考えなければならない。採用者数は平成十二年度に最少となったが、前述のように、この十二年度に競争倍率が最高となった。続く十三~二十八年度までの採用者数は十六年連続で増加している。現在は、「団塊の世代」に続く世代の大量退職期が継続しており、公立学校教員の採用者数は増加し続けている。自ずと競争倍率は低下することになり、倍率低下による教師の質の低下を懸念する声が一段と強まっている。
■求められる教師の資質
そもそも教師に求められる資質とは何であろうか。福岡県は「教師に求められる資質」として①子供が憧れる人間的魅力、②子供に対する広く深い愛情、③教師としての強い使命感の三点を挙げている。
ところで、子供たちの学ぶ意欲や態度を支えるのは、豊かな「体験」である。「体験」が欠如すれば周囲の環境に対する関心が薄れ、感性が失われる。学習において体験活動が重視される所以である。ならばその学びをリードする教師自身も、自らの教育活動の基盤として豊かな「体験」を持たなければならない。教師として、一人の人間として、様々な出会いや経験を積むところから「人間的魅力」「広く深い愛情」「使命感」も涵養されていくのではなかろうか。
本年六月、国際教員指導環境調査(TALIS)の結果が発表されたが、我が国の教師が職能開発(つまり研修等)に費やした時間は、調査対象国中で最短であり、日頃の煩雑な業務が教師の自己研鑽の妨げとなっていることが示されている。
教師という職業は、研究と修養……人としてのあり方や生き方を高めること……が実際の仕事に直接に関わる特殊な職業である。教師として、一人の人間として、自らの生きる姿を子供たちに示すところから教育は始まる。そこが教師という職業の素晴らしさでもある。
教師が自己研鑽に向かう時間を確保するためにも、学校の教育目標にそって業務の優先順位をしっかりと見定め、精選を図るとともに、業務を一人で丸抱えせず、情報やノウハウを共有し、協力して業務を進める「チーム学校」体制をいかに構築するかが今後の鍵となる。
■「教育の日」の制定を
教育のありようは、国家の将来を左右するものである。昨今「教職員の働き方改革」が唱えられるが、今こそ、些末な議論に終始せず、我が国の将来を見据え、教育をいかに再構築していくか、教師はもとより、社会全体が改めて考えるとともに、教育の地位向上を図るべき時ではないか。
現在、二百を超える自治体で「教育の日」が制定されている。例えば福岡県八女市では平成十六年、市制五十周年を機に十一月五日を「八女市教育の日」と定めた。八女市民の教育に対する関心と理解を深め、教育の充実と発展を図るとともに、八女市を愛し、ふる里に誇りを持つ子供たちを育むことを目的としている。また、十一月一日~七日を「八女市教育週間」として、学校を中心に教育に関わる行事が開催されている。地域社会との有機的な繋がりの中で、子供たちの豊かな体験活動が展開されていく。「教育の日」の制定は、社会全体が当事者として教育の意義、目的をとらえ直す好機となるであろう。また、このような取り組みがこれから教師を目指す人たちに向けたエールとなることを期待したい。
近年、公立学校の教員採用試験における競争倍率が低下している。例年四月に文科省から発表される「公立学校教員採用選考試験の実施状況」によると、昭和五十四年度以降、平成十二年度の競争倍率が最も高く、13.3倍であった。これに対して平成三十年度の競争倍率は4.9倍まで低下している。
■受験者数は減っているのか
競争倍率の著しい低下の背景として、受験者数の大幅減を想起しがちだが、実は、教員採用試験の受験者数はさほど減少していない。受験者数の推移を概観すると、平成五~十七年度は増加、十八~二十五年度は横ばいで、二十六年度以降は減少傾向にあるが、あくまでも「微減」のレベルである。競争倍率低下の主たる要因は、受験者数の減少というよりも、採用者数の大幅増にあると考えなければならない。採用者数は平成十二年度に最少となったが、前述のように、この十二年度に競争倍率が最高となった。続く十三~二十八年度までの採用者数は十六年連続で増加している。現在は、「団塊の世代」に続く世代の大量退職期が継続しており、公立学校教員の採用者数は増加し続けている。自ずと競争倍率は低下することになり、倍率低下による教師の質の低下を懸念する声が一段と強まっている。
■求められる教師の資質
そもそも教師に求められる資質とは何であろうか。福岡県は「教師に求められる資質」として①子供が憧れる人間的魅力、②子供に対する広く深い愛情、③教師としての強い使命感の三点を挙げている。
ところで、子供たちの学ぶ意欲や態度を支えるのは、豊かな「体験」である。「体験」が欠如すれば周囲の環境に対する関心が薄れ、感性が失われる。学習において体験活動が重視される所以である。ならばその学びをリードする教師自身も、自らの教育活動の基盤として豊かな「体験」を持たなければならない。教師として、一人の人間として、様々な出会いや経験を積むところから「人間的魅力」「広く深い愛情」「使命感」も涵養されていくのではなかろうか。
本年六月、国際教員指導環境調査(TALIS)の結果が発表されたが、我が国の教師が職能開発(つまり研修等)に費やした時間は、調査対象国中で最短であり、日頃の煩雑な業務が教師の自己研鑽の妨げとなっていることが示されている。
教師という職業は、研究と修養……人としてのあり方や生き方を高めること……が実際の仕事に直接に関わる特殊な職業である。教師として、一人の人間として、自らの生きる姿を子供たちに示すところから教育は始まる。そこが教師という職業の素晴らしさでもある。
教師が自己研鑽に向かう時間を確保するためにも、学校の教育目標にそって業務の優先順位をしっかりと見定め、精選を図るとともに、業務を一人で丸抱えせず、情報やノウハウを共有し、協力して業務を進める「チーム学校」体制をいかに構築するかが今後の鍵となる。
■「教育の日」の制定を
教育のありようは、国家の将来を左右するものである。昨今「教職員の働き方改革」が唱えられるが、今こそ、些末な議論に終始せず、我が国の将来を見据え、教育をいかに再構築していくか、教師はもとより、社会全体が改めて考えるとともに、教育の地位向上を図るべき時ではないか。
現在、二百を超える自治体で「教育の日」が制定されている。例えば福岡県八女市では平成十六年、市制五十周年を機に十一月五日を「八女市教育の日」と定めた。八女市民の教育に対する関心と理解を深め、教育の充実と発展を図るとともに、八女市を愛し、ふる里に誇りを持つ子供たちを育むことを目的としている。また、十一月一日~七日を「八女市教育週間」として、学校を中心に教育に関わる行事が開催されている。地域社会との有機的な繋がりの中で、子供たちの豊かな体験活動が展開されていく。「教育の日」の制定は、社会全体が当事者として教育の意義、目的をとらえ直す好機となるであろう。また、このような取り組みがこれから教師を目指す人たちに向けたエールとなることを期待したい。
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