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私たちの主張

Opinion

令和元年10月24日

「自校教育のすすめ」

■自校教育とは  
「自校教育」という言葉は世間一般にはあまり浸透していないかもしれないが、現在多くの大学で初年度教育のカリキュラムの中に「自校教育」が組み込まれている。その多くは、大学の建学の精神や歴史、今後の展望等を、入学したばかりの学生に伝えるものである。
 たとえば立教大学では、平成十四年度より自校史科目として「立教大学の歴史」を開講し、開学以来の歴史を振り返りながら、大学にとって転換点となった出来事と、その出来事にどのような意義を見出すのかを、学生とともに考えるという形式で講義が進められてきた。
■自校教育の効果
 この「自校教育」のもたらす効果とはどのようなものか。まず思いつくところは、学生に大学への帰属意識や愛校心を持たせる、ということであろう。立教大学で「立教大学の歴史」を担当した豊田雅幸氏は、学生の反応として「大学の歴史に触れたことで、大学への愛着・誇り・尊敬といった思いを深めた、さらには、自分への自信を深めた、または、学生生活を見直すきっかけとなった、というような反応が少なからずあった」と述べている(『大学教育研究フォーラム』〈立教大学〉十三)。
つまり、「自校教育」を行うことによって、学生がこの大学で学ぶことの意義を見つめるとともに、アイデンティティの基盤を形成する契機となりうることを示している。そこで培われた自信、確かな手応えが、大学への帰属意識や愛校心へと結びつくのであろう。さらには、このような基盤が、生涯にわたって学び続け、人生を切り拓く力の源泉となるのではないだろうか。
■成長段階に応じた自校教育
この「自校教育」を小・中・高校にも積極的に取り入れることを、小論では提起したい。
どの学校にも、歴史の長短はあれ、学校を築き上げてきた人々の想いがある。そしてその想いの積み重ねの先端に、在校生の「いま」と「ここ」が存在する。自校の歴史を新入生オリエンテーション等で解説する学校もあるだろうが、それをさらに発展させ、成長段階に応じた「探究活動」に結びつけてはどうだろうか。子供たち自身が自校の歴史を調べ、その歴史を持つ学校で学ぶ意義を級友とともに考え、話し合うといった活動を展開すれば、子供たちは自らの置かれた「いま」と「ここ」を多角的な視点から考察し、理解することになる。その学びの中で自らの学校に愛着を感じることができれば、それが愛校心や帰属意識へとつながっていくであろう。また多角的な視点からの自己理解は、自己肯定感、他者に対する共感的理解、受容の姿勢の涵養にも資するものと思われる。
■学校という「居場所」
新学習指導要領の総則編では、不登校児童生徒への配慮として「共感的理解」「受容の姿勢」の重要性を示している。このような姿勢は、教師はもちろんのこと、子供たちも含めた学校全体で構築していかなければならないものであるが、その意味で「自校教育」は不登校等、いま学校教育が抱える課題の解決に向けた方策の一つとなりうるのではないか。
また開善塾教育相談研究所顧問の金澤純三氏は、ある機関誌の記事において、全国各地の不登校の子供たちと面談を行ってきた経験を踏まえ、不登校の子供たちを元気づける最善の策は「帰属意識を持たせること」にあるという考えを示している。つまり、学校は、子供たちにとって安心して軸足を置くことのできる学びの場、愛着や帰属意識を持てる「居場所」であることが重要であり、その意味でも「自校教育」が課題解決の糸口となりうるものと考える。
■文化の継承者として
人は、先人の文化を連綿と継承、発展させながら歴史を積み上げてきた。学校では同様に、先輩たちが培ってきた学校文化を在校生が継承、発展させ、後輩へと引き継いでいく。学校文化の継承を通して、歴史とつながり周囲の環境とつながりながら生きていく、人としての普遍的なあり方を学ぶのである。「自校教育」を通してそのような視点が生まれれば、自らの「居場所」としての学校に、より深い意味づけができるであろう。

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