平成25年9月1日
『はだしのゲン』問題の本質を問い直す
噛み合わない議論
中沢啓二氏の作品『はだしのゲン』が誤った歴史認識を子供に植え付けかねないとして学校図書館からの撤去を求める陳情が松江市にあり、松江市教育委員会は、昨年12月、市内の小中学校に対し、学校図書館の『はだしのゲン』を教師の許可がなくては閲覧できない閉架とするよう要請し、ほとんどの学校がこれに従った。このことが今年8月に報道されると、その是非をめぐって大きな論争となった。この件について、下村博文文部科学大臣は、発達段階における教育上の配慮は必要であり、市教委の判断も考え方の一つで法的に問題はないとして、その対応を尊重した。しかし、平和教育の機会や子供の知る自由が失われるとして、閲覧制限に反対する人々は署名活動などで世論を突き動かし、最終的に松江市教育委員会は閉架の要請を撤回することとなった。今回の経緯を詳しく見ていくと最初に松江市に陳情を行った人物や松江市教育委員会、閲覧制限賛成、反対それぞれの立場の主張があるが、議論が噛み合っていないことが分かる。一連の経緯とそれぞれの立場からの主張を改めてまとめると以下の通りとなる。
①松江市に陳情を行った人物は作品の誤った歴史認識や天皇に対する冒涜を問題にし、『はだしのゲン』を小中学校に置かないことを訴えた。
②松江市教育委員会事務局は、陳情をきっかけに作品を通読したが、歴史認識等ではなく過激な描写を問題視し、各小中学校の校長に閲覧制限を要請した。
③閲覧制限に反対するマスコミ各社や運動家は、平和教育と子供の知る自由の視点で閉架に反対した。
④閲覧制限を支持するものは日本軍の行為に関する根拠のない記述など誤った歴史認識や天皇批判を理由としており、最初の陳情を行った人物の主張と一致している。
⑤松江市教育委員会は、閲覧制限の理由ではなく措置に至る手続きに不備があったとして閲覧制限の要請を撤回した。
『はだしのゲン』の功罪
『はだしのゲン』は、原爆の悲惨さを子供たちに学ばせるのに大変効果的である。子供の頃にこの本を手にした人々の多くがその衝撃を今でも記憶にとどめていると思う。作者の実体験に基づいて描かれた様子は、戦争を知らない人々にとって衝撃的であり、深く心に刻まれる。何よりも漫画という形態が子供たちにとって、受け入れやすい。しかしながら、だからこそ、危険であるとも言える。この作品で、初めて原爆の恐怖・悲惨さに触れる子供も多いが、問題は原爆の恐ろしさとともに作者の個人的な思想やイデオロギーも植え付けられるということである。閲覧制限に反対する人々は、一部が問題であっても全体として評価すべきだとの意見が大半を占めているように思う。この一部の問題というのは、過激な描写などではなく、学習指導要領に明らかに違反した偏向的な思想・主義に基づいた内容を判断力が未発達の小中学生に無条件に与えるというものである。果たして、この重要性をどれだけの人々が認識して閲覧制限に反対しているのであろうか。
改めて問題の本質を問い直す
『はだしのゲン』は当初は少年誌に連載されていたが、後半は、共産党系の雑誌を経て、日教組の機関誌に連載されている。これに合わせたかのように後半に進むに従って、特定のイデオロギー色が強くなっていく。主人公のゲンや友人は、日教組の代弁者となって、式典の国歌斉唱に反対し、天皇の戦争責任を主張したり、言葉汚く罵ったりする。ところが閲覧制限に反対する論陣を張ったマスコミ各社は、この点についてほとんど触れず、論点を平和教育や子供の知る権利にすり替えている。子供の知る権利を主張する一方で、自分たちの都合の悪いことは曖昧にし、国民に知らせない姿勢は矛盾以外の何ものでもない。作品の後半部分の天皇や君が代に対する侮辱的な記述を学校現場で扱うことを国民の多くは果たして支持するであろうか。小学校学習指導要領には「天皇についての理解と敬愛の念を深めるようにする必要がある」「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」とある。閲覧制限に反対する人々は学習指導要領に反するこれらの重要な問題をどう捉えているのかを明らかにせねばなるまい。また、松江市教育委員会も、閲覧制限決定の際、そして撤回の際も、学習指導要領に関わる重要な問題について議論を行っていない。以上のように『はだしのゲン』については、作品と学習指導要領との整合性について検証した上で、改めて学校現場で使用することの是非を議論する必要がある。『はだしのゲン』を巡る一連の動きは、一部のマスコミや運動家によって、国民の多くが実際の中身を吟味しないまま反対する世論が形成されていくという点において、歴史教科書問題と同質である。今回の問題から我々は、戦後の偏向教育の根深さとこれを擁護する反日的なマスコミが、いかに教育の正常化を阻んでいるかを改めて認識しなければならない。
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