福岡教育連盟は教育の正常化を目指し、日々教育活動に励む教職員の集まりです。

私たちの主張

Opinion

平成28年12月21日

「縁」と「恩」地方創生への教育



人口問題に対する基本認識

 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」によると、2008年にピークを迎えた日本の総人口(約12,800万人)は、2060年には約8,700万人まで減少すると見通されている。出生率の推移次第ではその数値はまだ楽観的なものであり、まさに人口減少への対応は待ったなしである。
 閣議決定された「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」によると人口減少は地方から始まり、都市部へ広がる。若い世代が東京圏へ流出する「社会減」と出生率が低下する「自然減」がダブルで襲ってくるので当然のことであるが、すでに多くの地方自治体は「減少」ならぬ「急減」の危機に直面していると言える。


若年者の人口流出 

 地方創生の基盤は各地方における人材育成(教育)にある。ここでは若い世代の大都市部への流出に着目したい。三菱UFJリサーチ&コンサルティング公共経営・地域政策部研究員喜多下悠貴氏のレポート『地方創生のための教育について考える』では、「大学収容力」と「地域内大学進学率」を算出している。「大学収容力」とはその地域の進学者層のうち、何人を同地域の大学で収容できるかを表す「自給力」であり、「地域内大学進学率」とは各都道府県からの大学進学者のうち、何割が地元の大学に進学したのか示す。予想できることだが、この二つの数値は同傾向を示しており、平成二十七年のデータでは、多い地域で実に8~9割が県外の大学に進学していることを示している。喜多下氏は大学進学者のうち、大学進学を機に「地方に戻らない者」の割合も推計しているが、高水準なグループに属する県で、7割を超える者が地方に戻らないという結果となっている。
 大学進学者に限った話ではあるが、高等学校での進路指導を振り返ると、大学卒業後に、生まれ育った地元への貢献を志す生徒をこれまで育成してきただろうかという点について、大いに考えさせられる。

地方創生のための教育

 人口の流出入は、もちろん意図的にコントロールできるものではない。加えて、地方創生というとどうしても行政の仕事と教育関係者は見てしまう傾向があるのではないかと思う。しかし、それで良いのであろうか。
 統廃合などにより、高等学校の数も減少しており、生徒獲得のために学校の魅力をいかに打ち出すか頭を悩ませる学校も多い中、平成20年から自治体と一体となって、高校魅力化プロジェクトに取り組み、生徒数を増やしている学校に、島根県立隠岐島前高校がある。「島留学」により島外から生徒を募り、「特別進学コース」「地域創造コース」により魅力あふれるプログラムを取り入れるなど、成果を挙げている。ここまで思い切った策は容易ではないが、地方創生と教育の結びつきという視点から、参考になる事例だ。
 折しも次期学習指導要領では「社会に開かれた教育課程」の実現をうたっており、地域と学校との連携・協働がより一層求められてくる。また、解が容易に見つからない課題を他者と協働しながら解決する能力の育成も求められているが、まさに人口減少や地域課題そのものが生徒が考えるべき重要な教育テーマになりうるだろう。
 先述の喜多下氏はレポートの中で地方創生のための教育について興味深い提言をしている。まず、進学流出を「武者修行」と定義付け、都市部での教育投資を故郷に還元する可能性に言及し、それを仕組み化する富山県氷見市、鹿児島県長島町、慶應義塾大学SFC研究所社会イノベーション・ラボの三者による「ぶり奨学プログラム」(学びの機会を求めて地域外に進学する人材に資金面で援助する仕組み)などの事例を紹介している。さらにその動機付けとなるのは「その地域で育てられた」という「縁」と「だからこそ今がある」という「恩」であると指摘しており、先行きが不透明な現代であるからこそ、その不易のキーワードが一層の重みを持つように感じられるのである。
 学校教育も地方創生という難題に真正面から取り組まなければならないと改めて考えるところである。

※本稿は平成28年12月15日に産経新聞九州山口面に掲載された「一筆両断」に修正を加えたものです。