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私たちの主張

Opinion

令和2年2月13日

子供たちの「読解力」向上のために

■学習到達度調査(PISA)
 昨年十二月三日、経済協力開発機構(OECD)が世界の十五歳を対象に三年ごとに三分野の力を調べる学習到達度調査(PISA)の結果を公表した。この調査は、七十九の国・地域で約六十万人が参加し、日本からは統計手法に基づいて抽出した百八十三校から高校一年生約六千百人が参加した。日本の平均点は、「数学的応用力」が六位、「科学的応用力」が五位だった。一方、「読解力」は十五位で、前々回の四位、前回の八位から下がり続けている。日本の子供たちの読解力低下を止めるために、学校現場は今後どのような指導をすべきだろうか。

■ICTへの対応
PISAの調査方法が前回、紙からコンピュータを使う形になったが、ICTを学習に利用する時間が少ない日本の十五歳にとってハードルが高かったのではないだろうか。画面を切り替えながら複数の資料を読ませる問題形式などに生徒が十分対応できなかった可能性がある。実際に授業でデジタル機器を使う時間は、OECD加盟国の中で日本は最下位である。このような状況を改善するため、政府は全国の小中学校のすべての児童・生徒が「一人一台」の状況でパソコンやタブレット型端末を使える環境を、令和五年度までに整備するための政策を経済対策に盛り込んだ。学校現場も「一人一台」のパソコンを効果的に活用した授業展開を考え始めなければならない。

■子供を取り巻く言語環境
 また、スマートフォンが普及し、SNS上での子供たちのコミュニケーションでは、短文や絵文字のやりとりが中心となっている。そのため、長い文章を読み、分かりやすい文章を書く機会が減っている。このような言語環境の変化も、読解力低下の一因であると考えられる。一方で、本や新聞を読む習慣がある子供たちの読解力の得点は高かった。活字に慣れていることが、文章を的確に理解する力を育んでいることに間違いはない。学校現場が取り組むべきことは明確である。

■「ビブリオバトル」
 各家庭のインターネット環境が整備され、新聞やテレビを見ない子供たちが増えているという。このような状況下で、「読解力」の向上を図るためには、意図的に活字に触れる機会を増やすしかない。子供たちが楽しみながら、活字に触れる方策の一つとして、好きな本の魅力を語る書評合戦「ビブリオバトル」が多くの学校で導入され始めている。そのルールは非常にシンプルである。
①発表参加者が読んでおもしろいと思った本を持って集まる。
②順番に一人五分間で本を紹介する。
③それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを二~三分行う。
④全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを「チャンプ本」とする。
書店や図書館に行くと様々なジャンルの本が並んでいる。その中から興味のあるものを選んで読むだけでなく、その本の良さを五分で参加者に伝えなければならない。読解力と同時に表現力の向上にも繋がる。十年以上前に京都大学のある研究室で始まった「ビブリオバトル」であるが、日本の子供たちの「読解力」向上に、今後大きな役割を果たすのではないだろうか。

■「論理国語」と「文学国語」
一方で、令和四年度から始まる高校の新学習指導要領の国語では、「現代文」が実用的文章を学ぶ「論理国語」と、文学を題材にする「文学国語」に分かれる。論理国語が設けられた背景には、高校生の読解力が低下し、リポートなどをまとめる力も不足している現状がある。確かに論理的、実用的な文章を読み解き、書く力も大切であるが、若い時期にこそ、文学作品に触れ、その作品の主人公に自分を重ね合わせながら、心情を読み取る感性を育むことも大切ではないだろうか。
子供たちの「読解力」向上のために、「デジタル」と「アナログ」をうまく活用しながら、論理を読み解く思考力、心情を読み解く感性をバランスよく育む視点を忘れてはならない。

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