福岡教育連盟は教育の正常化を目指し、日々教育活動に励む教職員の集まりです。

私たちの主張

Opinion

平成25年3月2日

すべての教師に求められる「特別支援教育」の視点

過渡期にある特別支援教育

今日の特別支援教育や福祉等は大きな過渡期にあり、混迷した状況でもある。昨今よく耳にするノーマライゼーションの目指す「共に学び・共に生きる」理念は、障害の有無を問わず誰もが平等かつ幸福に生きていける社会を指すもので、理想の姿である。QOL(Quality of Life)や社会参加(自立)等、自分の生き方を自分で決め、できないところは介助制度等を使いながら、充実した生活を送ることができる社会が望まれる。

しかし、障害者に係る教育・福祉・医療・保健・労働等は、それぞれをみても、またいずれの連携をみても課題は多い。平成18年12月に国連が採択した障害者の権利に関する条約では、「締約国は、差別をなくし、教育や雇用などあらゆる分野で障害者に健常者と同じ権利を保障する義務を負う。」としている。日本は平成19年9月に署名はしたが未批准であり、政府は批准に向けて障害者基本法の改正等を検討している状況でもある。

特別支援教育の現状

教育現場では平成19年度より始まった「特別支援教育」により、全ての学校において特別な支援を必要とする幼児児童生徒に対して、自立や社会参加に向けた主体的な支援を目的とした教育が行われるようになった。

近年、特別支援学校や特別支援学級に在籍している幼児児童生徒が増加する傾向にあり、平成23年5月1日現在、義務教育段階において特別支援学校及び小学校・中学校の特別支援学級の在籍者並びに通級による指導を受けている児童生徒の総数の占める割合は約2.7%である。また、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、高機能自閉症等、学習や生活の面で特別な教育的支援を必要とする児童生徒数は、文部科学省が平成24年に実施した「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の結果、約6.5%程度の割合で通常の学級に在籍している可能性を示している。

さらに障害のある児童生徒をめぐる最近の動向として、障害の重度・重複化や多様化、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)等の児童生徒への対応や、早期からの教育的対応に関する要望の高まり、高等部への進学率の上昇、卒業後の進路の多様化、障害者の自立と社会参加などが進んでいる(文部科学省)。

すべての子供に必要な授業のユニバーサルデザイン化

こうした中、特別支援教育において授業のユニバーサルデザイン化が謳われるようになってきた。このユニバーサルデザインとは、ロン・メイスが提唱したもので、指針となる7つの原則、①公平であること、②自由度が高いこと、③簡単であること、④分かりやすいこと、⑤安全であること、⑥疲れず使いやすいこと、⑦アクセスしやすいことが挙げられている。

これまで障害のある子供たちに対して行われてきた教育的支援は、個別にアプローチしていたところが大きい。しかし、それは単に「個」に対して有効なだけではなく、障害の有無にかかわらず子供たち全てに分かりやすくなるものである。これこそが授業のユニバーサルデザイン化であり、具体的には教室内の物理的構造化、見通しがもちやすいような板書の工夫、発問の仕方の工夫、視覚的に理解しやすくするICTを活用した授業等、これらはいずれも一人一人の個に応じた教育的ニーズを把握した適切な教育的支援でありながら、全ての幼児児童生徒の指導においても必要なものばかりである。この流れは今後も推進されていくものと考えられる。

■「発達障害」と指導の放棄
一方、福岡教育連盟特別支援教育部は平成19年度より「発達障害」に焦点を当て、特に高等学校に在籍している発達障害や困り感を有する生徒に関する入門的パンフレットの作成・配付や「個別の教育支援計画」(高等学校版)の雛型モデルの提示、SST(ソーシャルスキルトレーニング)の活用等、高等学校において指導に直接生かせるものを発信してきた。それにより年々特別支援教育に対する意識も高まり、学校現場において「特別支援教育」や「発達障害」をキーワードにした話題がなされるようになったと耳にすることが多くなった。

これは非常に喜ばしいことであり、「特別支援教育」の視点をもって指導にあたることの重要性を我々は何度も声高に訴えてきた。しかしながら現場では、逆にそれを隠れ蓑にして、「あの子は発達障害かもしれない」「ADHDっぽいから、門外漢だし何してよいかわからない」「アスペルガーだから、仕方ない」等と半ば指導を放棄するような発言をする教師が増えてきている現実があるということを聞き愕然とした。

■教師に求められる姿勢
福岡教育連盟のスローガンである「すべての子どもをわが子として」にあるように、発達障害の有無を問わず、そこに困り感を抱えた子供と対峙したとき、全身全霊で子供のために尽くす教師の集まりこそが本連盟である。我々はその自負と誇りをもち、日々自己研鑽に努め、幅広い知識と見識をもち、高い専門性を有する教師でありたい。

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