福岡教育連盟は教育の正常化を目指し、日々教育活動に励む教職員の集まりです。

私たちの主張

Opinion

平成25年1月2日

東大の秋入学から考えること-国際社会で生きるとは-

東大秋入学の概略

昨年4月、東京大学入学式において、浜田純一総長は「よりタフに、よりグローバルに。世界的視野を持った市民的エリートとして、次の時代を担うべく成長してほしい」と式辞の中で新入生に呼びかけた。秋入学が目指すものは、東大のグローバル化と学生の質の向上の2点に集約されそうである。また、昨年10月には、秋入学全面移行への最初のステップとして、現行の春入学を維持しつつ正規の授業を秋から始める「春入学、秋始業、春卒業」を平成26年度に導入することを検討していると報じられた。この制度は、平成29年度を目途に全面移行を目指すと言われている。

グローバル化に向けた秋入学のねらい

秋入学が本格化すれば、これまでとは大きく異なる様々な変化が想定されるが、ここではグローバル化に向けた秋入学による変化に照準を合わせたい。

東京大学の中期的ビジョンが書かれた「平成24年度版 東京大学の行動シナリオ FOREST2015」の中に、「平成32年までに留学生比率を12%以上、外国人教員比率を10%以上、英語による授業科目を3倍以上に増加させること、平成27年までに全ての学生に海外留学・派遣を含む国際的な学習・研究体験を提供することを目指す」とある。

現在、世界215か国の7割近くが秋入学を実施しており、日本のように春入学を採用している国は少数派である。学事暦を世界の過半数に合わせることで、国外からの優秀な教員や学生の受け入れをより推進していくねらいがあると言える。

また、新入生は4月から数ヶ月間、「ギャップターム」を経験することになる。ギャップタームは、英国で始まったギャップイヤーと呼ばれる制度を参考にしたもので、入学資格取得後に留学やボランティア等に費やすために与えられた猶予期間であり、国内でもすでに国際教養大学や名古屋商科大学でギャップイヤー制度が導入されている。東大はこのギャップターム制度を見据えて、次年度入学生から「初年次長期自主活動プログラム(FLYプログラム)」を導入し、新入生約3000人の1%、約30人を上限に、入学直後の1年間を休学扱いし、海外留学やボランティア等を行うことができる期間を設ける予定である。秋入学導入後は、新入生全員がこの「ギャップターム」を利用し、海外で学習する機会を得ることができる。

大学研究家山内太地氏の著書「東大秋入学の衝撃」によると、平成23年5月の時点で、東大における海外からの留学生の受け入れに関しては、4月入学のみの学部段階ではわずか1.9%(276人)であり、また、留学経験のある日本人学生は学部段階で0.4%(53人)に留まっている。東大が目指す「留学生比率12%以上」、「全ての学生が海外留学・派遣を含む国際的な学習・研究を体験」が実現すれば、学生達は国内外において異文化に触れる機会が増え、グローバル化へと向かうだろう。

グローバル化に向けて必要なものは

ここで改めて「グローバル化」とは何かを考えるため「福岡教育連盟が考えるあるべき日本の教育(改訂版)」の一部を抜粋したい。「今日の我が国をとりまく世界状況を見たとき、教育の方向性として人類共通の課題解決に貢献する有為な人材を育てることは言うまでもない。しかし、世界的視野で活躍するためには、まず自国の主権者として、国益を追求し、守っていく日本人の育成が前提である。急速なグローバル化が進展するなかで、見落としがちな視点である」

グローバル化への条件として、意思疎通の道具としての語学力が必要とされるのは言うまでもない。しかし、それ以上に重要視されるべき要素は、国際社会でどのように振る舞い、何を発信していくかという日本人としての誇りと国際感覚である。

高等学校学習指導要領解説総則編第3章の中の、道徳教育の目標にも「これからの国際社会の中で主体性をもって生きていくには、・・・我が国や郷土の伝統と文化に対する関心や理解を深め、それを尊重し、継承・発展させる態度を育成するとともに、それらをはぐくんできた我が国と郷土への親しみや愛着の情を深め、そこにしっかりと根を下ろし、世界と日本とのかかわりについて考え、日本人としての自覚をもって、新しい文化の創造と社会の発展に貢献しうる能力や態度が養われなければならない」とある。

グローバル化を考える時に、そのための環境整備といった外的要因も重要であるが、事前に内面を整えておかなければその効果は薄くなる。日本を知り、その良さを発信できる能力が真のグローバル化につながるのである。