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Opinion

平成27年12月1日

「南京大虐殺」記憶遺産登録を問う



「南京大虐殺」記憶遺産に


 十月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に、中国が申請した日中戦争時の「南京大虐殺文書」が登録された。「南京大虐殺(南京事件)」とは、東京裁判における連合国側の証言や中国政府の主張に基づけば、日中戦争の際に国民政府の首都南京に攻め込んだ日本軍が「二〇万人から三〇万人もの中国人を虐殺した事件」ということになる。戦後長く日本国民の多くは、この説を真実として受け止めてきたが、日本人研究者の検証により、近年、これらが事実と大きく異なるのではないかという考えも広がってきている。だからこそ、中国は自己の主張を裏付けるために記憶遺産の登録を目指したと考えられる。
中国は今回の登録の理由を「歴史を心に刻み、非人道的かつ人類を侵害する犯罪行為が繰り返されることを防ぐため」としているが、本来の目的は、外交カードや国内統治のための政治的利用であることは、今までの中国の反日政策を見れば明らかである。人道的見地が理由ならば、毛沢東時代の大躍進政策や文化大革命の犠牲者の多さこそ、記憶にとどめるべきであろう。

記憶遺産の問題点


 今回の中国の動きに対して、外務省を中心とのする日本側の対応は後手に回ってしまったが、我々はこの世界記憶遺産の制度上の不備を知っておかなければならない。世界記憶遺産は、同じユネスコの世界遺産と異なり国際条約に基づいておらず、ユネスコの事務局が独自に運営しているものであり、選考においてはユネスコの事務局長も認めているように審査過程が不透明で、加盟国の承認も必要としない。また、中国が申請した資料には、明らかに南京事件と関連性のない資料も含まれているといわれているが、審議員は文化財保護の専門家であっても、近現代アジア史の専門家ではないため、これらの資料を検証する能力があったのか甚だ疑問である。こうしたことを理解しておかないと、記憶遺産登録により「南京大虐殺」の学術的権威が裏付けられたという認識を持つことになってしまう。

人数は大きな問題である


 犠牲となった人数が諸説ある中で、「大勢の中国市民が旧日本軍に殺されたのは事実であり、人数は問題ではなく、登録に反対する日本政府の主張はおかしい」とする意見が、中国のみならず国内においても存在する。確かに、戦闘中に日本軍によって命を奪われた非戦闘員はいるだろう。無論、被害者や遺族にとっては、人数ではなく命が奪われたという事実こそが重要である。だが、南京事件における議論は、無差別の大虐殺であったのか、主に戦闘に巻き込まれたものなのか、それともその中間なのか、規模が問われているのであり、この点においては犠牲者の人数は重要なポイントである。多くの日本の研究者が主張するように、その数が他国の戦時中の行為と比べて極端に上回るという証拠は確認されていない。ならば、戦争により少人数でも市民を巻き込んだ世界中の全ての事例を記憶遺産に登録しなければ整合性はとれないはずだ。

教師こそ正しい認識を


 今回の記憶遺産登録による教育現場への影響に対する懸念も広がっている。以前から自虐史観に立って授業を行ってきた教師が、お墨付きを得たと言わんばかりに虐殺事件であると強調して教えることは容易に想像できる。しかし、より大きな問題は、それ以外の教師も、南京事件について中国が主張する内容に何の疑念も持たず教えるようになることである。そうならないためにも、教師は、先述の中国の政治的意図や登録決定過程の制度上の不備を踏まえて、「世界記憶遺産に登録されたからといって虐殺の確証を得たことにはならない」ということをしっかりと認識すべきである。今回の件を苦い教訓としなければ、今後も同じようなことが繰り返されるであろう。この負の連鎖を断ち切るため、歴史教育が果たすべき役割と責任は大きい。

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