平成27年11月4日
主権者教育における政治的中立
主権者教育の副教材を読む
選挙権年齢が十八歳以上となったことを踏まえ、総務省と文部科学省は「私たちが拓く日本の未来 有権者として求められる力を身に付けるために」という副教材及び活用のための指導資料を作成した。
本連盟はかねてより両省に対し、主権者教育の充実を図り、指導の指針を示すよう要請してきたが、急ピッチで副教材が完成したことを評価したい。
まず、冒頭、「本書の願い」として、「高校生の間から有権者となりうる高校生世代が、これまでの歴史、つまり今まで受け継がれてきた蓄積や先人の取組や知恵といったものを踏まえ、(中略)社会の形成者として現在から未来を担っていくという公共の精神を育み、行動につなげていくことを目指したものです」とあり、その理念には強く賛同する。
構成は解説編、実践編、参
考編の三部構成で、解説編は有権者の意味や選挙制度の解説、政治の仕組みなど基本的な事柄の解説がなされている。実践編は話合いや討論、ディベート、模擬選挙など主として方法論を紹介。参考編は投票、選挙運動と政治活動についての基本的な解説がQ&A形式で提示されている。一読し、実践編への取組はすぐにはハードルが高いが、まずはルールを徹底する意味で利用価値は高いと考える。
高校生の政治的活動
さらに文部科学省は昭和四十四年に発出した「高等学校等における政治的教養と政治的活動について(通知)」に替わる新たな通知(案)を示している。当時は大学紛争の影響もあり、一部高校生による暴力的活動、授業妨害や学校封鎖などが行われていた時代である。この通知によって学校による政治教育に縛りが生まれたとの指摘も多いが、教育的立場からは発達の過程にある生徒が特定の政治的影響を受けないよう保護することは当然のことであり、また何よりも保護者の強い願いが背後にあったことを理解しておかなければならない。
さて、今回の通知案は先にのべた副教材の内容ともリンクするが、政治的教養の教育関係として、授業において現実の具体的な政治的事象を扱うことや、模擬選挙や模擬議会など実践的な教育活動を積極的に行うことを明確化している。その際留意事項として「学習指導要領に基づき、校長を中心に学校としての指導計画を立てる」ことを挙げていることに学校関係者は着目しておきたい。また、生徒の政治的活動については、次の内容を挙げている。
○学校の教育活動として、生徒が政治的活動等を行うことは、教育基本法第14条第2項につき禁止することが必要。
○放課後や休日等であっても、学校の構内で学校施設や物的管理の上での支障等が生じないよう、制限又は禁止することが必要。
○放課後や休日等に、学校の構外で行われる活動については、違法なもの等は禁止されるほか、学業や生活に支障があると認められる場合などは禁止することを含め、適切な指導が求められる。
高校生の本分は学業である。学校としては昭和四十四年通知の趣旨も踏まえ、選挙運動と政治的活動については厳密なルール化を図った上で、生涯にわたる基礎となる政治的教養と選択、判断能力の育成に重点を置くべきだと考える。
教員の政治的中立
現実の具体的な政治的事象を扱うことが求められる教員にとって、政治的中立の線引きは悩ましいところだ。通知案でも教員は個人的な主義主張を述べることは避け、公正かつ中立な立場で生徒を指導することや学校の内外を問わず地位を利用した結果とならうように留意することを求めている。こういったことを受け、「教員を萎縮させるな」といった論調も多く見受けられる。しかしながら、教師は生徒の今後の人生に多大なる影響力を及ぼし得るという点において常に緊張感が求められる。先の安保関連法案成立時に見られたように一方の考えのみを押しつけるような場合も想定できることから、何らかのペナルティは必要であると考える。
「公共の精神」を培うための主権者教育、この点を常に踏まえた議論が必要である。
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