福岡教育連盟は教育の正常化を目指し、日々教育活動に励む教職員の集まりです。

私たちの主張

Opinion

平成27年8月20日

「大は小を兼ねる」学力の向上を



「公表」による「信頼」の構築


 昨今、「学力向上」と「授業改善」がどの学校でもキーワードになっている。要因の一つとして全国学力・学習状況調査が悉皆調査に戻り、「公表」によって外からの目が入るようになってきたことが挙げられる。閉ざされがちであった学校の指導の成果が公開される可能性があるのだ。いまだに学力テスト反対を唱える一部教職員組合もあるようだが、プロの教師として教壇に立つ以上、客観的な評価を受けることは当然のことである。文部科学省が言うとおり、教育活動の一側面であることを踏まえることや序列化や過度な競争が生じないようにするなどの教育上の効果や影響等に配慮しつつも、結果分析を踏まえ、改善に活かすという姿勢は教師力を上げることにつながる。また、学校側が学力の現状や指導のプロセスや成果、課題などを保護者や地域に情報公開することは学校の信頼の回復にもつながるものと考える。先日、研修会でお世話になった愛媛大学教育学部教授の露口健司氏は、成果が低くても学力向上に向かう「努力情報」の公開が重要であると指摘している。また、「公表」という信頼醸成効果について、「学力向上の過程に保護者や地域を巻き込んでいる場合、協働作業の結果である学力テストの結果を保護者、地域に公表するのは学校として当然の義務である。協力は要請するが、結果は教えないという行為の選択は、公開性や誠実性の視点を欠いており、信頼構築に非効果的である。」(『学力向上と信頼構築』ぎょうせい)と述べており、この視点がこれからますます重要になってくるだろう。

「授業改善」と教師間のコンセンサス


 そうなると「授業改善」に学校全体で取り組んでいくという視点が不可欠となる。ただし、現場の状況を見ていると、教職員の業務量は確実に増えている。定数の改善が財政的に難しい中、外部人材の活用を含めた「チーム学校」の議論も行われているが、教師が本来的業務に集中するための教育環境の改善は必要である。その上で、学校のベクトルをはっきりと示すリーダーシップや職員間の信頼の構築も必要であり、大いに議論しながら学校を動かしていくという教師文化も大事にしたい。現在、「アクティブ・ラーニング」に焦点があてられているが、どういう力を育成するために、どういう授業方法をとるのかという教師間のコンセンサスと互いに切磋琢磨する授業研究があってはじめて効果がでる。また学力の基礎基本とは何かという定義づけと教師間の共有も大事である。学習意欲は教師側の働きかけによって生まれることも忘れてはならない。

「大は小を兼ねる」力を


 最後に一教師としての視点である。学力向上は当然目標としてあるが、短期的な結果に過ぎない場合もある。森信三先生は「教育の真の勝負は、教師がその教え子を手放してから、十五年辺から始まる」と言われたそうだが、学校で身に付けた力がどう社会で発揮されるのかという点や、徳力や体力も併せた人間力の育成とそれを可能にする教師の感化力、薫化力を求め続けなければなるまい。言葉の力をつけることを人間教育として取り組まれた大村はま先生は、入試対策で心配する保護者や生徒に対して、「大丈夫。大は小を兼ねる。大きな力を育てておけば、その大きな力のある部分を使って、試験なんていうのは対応していける」また、「自転車にしっかりと乗れる漕ぎ手、力強くペダルを漕ぎ、ハンドルを上手にコントロールする、そういう良い乗り手を育てておけば、行くべきところに行く」と仰っていたそうである。これは理想論なのかもしれないが、ただ、教壇に立つ我々は、「学力向上対策」に留まらず、心から伝えたいことを伝え、身に付けさせたい力を付けさせる、「大は小を兼ねる」学力向上とするための力量を身に付けなければならない。その土台は何か、ここを教師は見失ってはならない。
※本稿は平成二十七年七月二十三日に産経新聞に掲載された「一筆両断」に修正を加えたものです。